以下は、"FiveBooks Interviews:Christina Romer on Learning from the Great Depression"(The Browser, interviewed by Eve Gerber, February 17, 2012)の訳。2回に分けて訳す予定。(追記;その2(2/2)はこちら)。
質問者:本日は大恐慌の教訓をテーマに語っていただきます。クリスティーナ・ローマー教授、あなたはこのテーマの専門家です。誰に聞いても、2008年の秋にバラク・オバマ大統領があなたに政権入りしてくれないかと声をかけた理由の一つは「大恐慌の専門家だから」と答えることでしょう。あなたがCEAの委員長に就任する準備をされていた頃、経済学者らは2008年の金融危機がアメリカ経済に及ぼす被害をどの程度適切に理解していたでしょうか?
ローマー:金融危機の真っ只中において、これまでにどれだけのダメージが経済に生じてしまっているか、そのインパクトはどの範囲にまで及ぶだろうかを推測することは困難でした。しかし、私たち経済学者は歴史から次のことをしっかりと学びとっていました。政策当局者が危機を食い止め、危機がもたらすダメージを和らげるような手段を採らなければ、危機は極めて破滅的な結果をもたらす可能性がある、ということです。
質問者:政治的に右寄りのウェブサイトでは「オバマ不況」("Obama's Depression")との言葉が躍っています。経済学者と党派的なブロガーとでは同じ「不況」("depression")という用語でも違った意味で使用しているのでしょうが、経済学者が「不況」という言葉を使う場合に正確にはどのような意味で使っているのでしょうか?
ローマー:実のところ、「景気後退」("recession")や「景気拡張」("expansion")といった用語とは違い、「不況」("depression")という用語はきちんと定義された意味を持つ用語ではありません。例えば、NBER(全米経済研究所)は、「景気後退」を経済活動が低迷している時期と定義しています。一方で、「不況」についてはしばしば経済学者も他の人々と同様の意味でそれを使用しています。つまりは、非常に深刻でいつにもまして長引く景気後退(a really bad and exceptionally prolonged recession)を指して不況と呼ぶのです。現下の景気後退は不況と呼び得るほどひどいものかもしれませんが、しかし、誰もが皆不況であると同意するであろう1930年代の大恐慌に比べれば、現下の景気後退はその深刻さの程度も軽く、その期間の長さも1930年代の大恐慌には及びません。比較として一つだけ経済指標をあげると、2009年におけるアメリカの失業率のピークは10%でしたが、1930年代初頭の失業率は25%に達していたのです。
質問者:さて、それでは今回お選びいただきました5冊の本(と論文)についてお話を伺っていくことにしましょう。最初の3冊は「何が大恐慌を引き起こしたか」というトピック(大恐慌の原因)を扱っており、残る2冊は「何が大恐慌を終焉させたか」というトピック(大恐慌の解決策・処方箋)を扱っているものですね。今回お選びいただいたリストのトップにある本はミルトン・フリードマン(Milton Friedman)とアンナ・シュワルツ(Anna Schwartz)の共著『A Monetary History of the United States, 1867-1960』(『合衆国貨幣史』)です。この本についての簡単な要約と大恐慌の原因をめぐる論争に対してこの本がどのようなインパクトをもたらしたか、このあたりからご説明いただけるでしょうか。
ローマー:たびたび講義で学生にこう語るものです。「経済学の本で何か一冊だけ買うべき本があるとすれば、この『合衆国貨幣史』こそその一冊だ」、と。大恐慌を理解する上で重要であることは言うまでもありませんが、この本の持つインパクトは単にそれだけにとどまるものではありません。この本でフリードマンとシュワルツは、アメリカの歴史を通じて貨幣的な出来事(monetary events)や金融政策が実体的な経済活動に対して影響を与えてきたことを示しています。
これは本当に重要な発見です。この本は、総需要に影響を与えるような貨幣的な変化が私たちが関心を持つあれこれのこと、例えば、雇用や失業、生産量(経済においてどれだけの量の生産がなされるか)といったものに対してインパクトを持っていることを示しているのです。また、フリードマンとシュワルツは、この本で、政策当局者が抱いている動機や思考に関する歴史上の証拠が貨幣と生産との間の因果関係を立証する上で役立つことも示しています。
大恐慌時のマニトバ州
今回推薦図書のリストを作成するよう依頼された際に、ジョン・メイナード・ケインズの『一般理論』をリストに入れるべきかどうか悩みました[] 。『一般理論』は非常に重要な本ですが、基本的にこの本が提供しているのは「いかにして総需要が生産に影響を及ぼし得るか」という点についての理論的な説明です。一方で、フリードマンとシュワルツの『合衆国貨幣史』は、理論を支える実証的な証拠を提示しています。私が『合衆国貨幣史』を推薦図書リストのトップに掲げた理由はこの点にあります。特に大恐慌に関していうと、フリードマンとシュワルツは、相次ぐ銀行パニックに伴ってマネーサプライが急落したことを明らかにしています。また、フリードマンとシュワルツは、「なぜFedは銀行パニックを抑制するためにほとんど何もしなかったのか?」という疑問に対して、(Fedの政策当局者らが抱いていた)経済に関する馬鹿げたアイデア(bad economic ideas)や組織の機能不全がその主要な理由であったと説得的な証拠を提示して論じています。
質問者:『合衆国貨幣史』が出版されてからほぼ50年が経過しています。『合衆国貨幣史』が提供している説明は今もなお依然として妥当するのでしょうか? それとも何か他の研究によって取って代わられたのでしょうか?
ローマー:『合衆国貨幣史』が今もなお古典であり続けている理由の一つは、その説明が長きにわたる検証に驚くべき程度まで耐えてきた、という点にあります。
フリードマンとシュワルツのアプローチの最も核となる部分は、現代の経済学者のそれとは大きく異なっています。現代の経済学者であれば、まずデータを収集してきて、そのデータを基に回帰分析を行います。いわゆる統計学的な検証というものです。一方で、フリードマンとシュワルツは、マネーサプライや生産に関するデータを欲するだけすべて集めたとしても、貨幣(マネーサプライ)は多くの理由に基づいて変化するために、マネーサプライと生産との間に成り立つ因果関係を特定することは非常に困難であろう、と理解していました。マネーサプライの変化は生産の変化によって引き起こされることがあります。生産の変化が銀行による貸し出しに影響を与え、ひいては貨幣乗数に影響を与えることがあるからです。また、� ��ネーサプライの変化はFedが失敗を犯すことによって引き起こされることもありますし、経済状況とは関係のない意図的な政策行動の結果として引き起こされることもあるのです。
『合衆国貨幣史』の優れている点は、統計学的な証拠以外にもナラティブな証拠を数多く利用しているところです。フリードマンとシュワルツは、1930年代にFRBで政策を担当した人物の日記を読み、政策決定に関する当時の議事録に目を通したのです。ナラティブな証拠の検証を通じて、彼らは、マネーサプライが比較的独立した理由・外生的な理由に基づいて変化したタイミング―マネーサプライの変化が生産に変化が起りそうな事態よりも先んじて生じたり、経済において進行中のその他の理由に基づくことなく生じたケース―を特定することが可能となったのです。そしてフリードマンとシュワルツは、マネーサプライが比較的外生的な理由によって変化した後に生産が同方向に大きく変化したこと[] を見出したのです。
『合衆国貨幣史』は私自身の研究の進め方にも非常に大きな影響を与えました。フリードマンとシュワルツが目を通した一次資料に私自身立ち返ってそれらを読み返す機会がこれまでに何度もありましたが、その度にほとんどいつも彼らの資料の読み方がいかに適切であるかを知って驚かされたものです。『合衆国貨幣史』は並はずれた学術研究の例を示しています。フリードマンとシュワルツは、文書上の証拠を慎重かつ公正な目でもって眺め、時の試練に耐え抜くことになる解釈に辿りついたのです。『合衆国貨幣史』がマクロ経済や大恐慌を理解する上で重要な書であり続けている理由はそのためなのです。
質問者:ノーベル賞を受賞した経済学者のロバート・ソローがかつて次のような冗談を語ったことは有名です。「何を見てもミルトンの頭にはマネーサプライのことが浮かぶようだ。一方で、何を見ても私の頭にはセックスのことが思い浮かぶ。しかし、私は頭に浮かんだそのこと(=セックス)を論文から締め出すようにしている」("Everything reminds Milton of the money supply. Well, everything reminds me of sex, but I keep it out of the paper.")この冗談でソローが言わんとしていることは何なのでしょうか?
ローマー:ミルトン・フリードマンは、貨幣(あるいは貨幣的な諸力)は経済に対して重要なインパクトを持つ、と深く信じていました。また彼は、その事実(貨幣が経済に対して重要なインパクトを持つという事実)を人々に気付かせる機会をみすみす見逃すということは決してなかったのです。
雇用法。
1960年代においては、フリードマンやシュワルツのようなマネタリスト-貨幣的な諸力(monetary forces)を非常に重要なものと考える経済学者-とポール・サミュエルソンやロバート・ソローのようなケインジアン-政府支出や税金の変化が持つインパクトに注目する傾向にあった経済学者-との間で論争が繰り広げられていました。しかし、現代の経済学者は、マネタリストとケインジアンとは同じ陣営に属するものとみなす傾向にあります。マネタリストもケインジアンもともに、強固な実証的な証拠に基づいて、経済の需要サイドに影響を与えるような何らかの変化-税金や貨幣的な変化、政府支出-は生産や雇用に対して影響を及ぼす、と考えているのです。
質問者:次の本に移りましょう。リストの2番目に掲げられているのは、バリー・アイケングリーン(Barry Eichengreen)の『Golden Fetters』(『金の足かせ』)です。大恐慌理解に対してこの本はどのような貢献を果たしたのでしょうか?
ローマー:「大恐慌はなぜ世界的な現象だったのか?」という質問に答える上で手助けとなるような説明を見出すのは重要なことです。フリードマンやシュワルツをはじめとした経済学者は、ここアメリカで生じた大恐慌の原因は、主に国内的なショック―株式市場の大規模な崩壊やコントロール不能な銀行危機の連鎖―に基づくものであることを示しました。しかし、もしそうだとすれば、どうしてイギリスやフランス、そして基本的には世界経済全体はあんなにもひどい景気の落ち込みを経験することになったのでしょうか? 私の同僚であるバリー・アイケングリーンは、『金の足かせ』の中で、アメリカで生じたショックがそれ以外の多くの国々に波及する上で金本位制が果たした役割について決定的な説明を提供� �ています。
基本的なストーリーはこういうことです。アメリカで金利の上昇あるいは物価の下落をもたらすような何らかのショックが生じた場合、他国からアメリカに向けて金が移動することになると考えられます。しかし、大恐慌期において各国は金準備の確保に気を揉んでおり、金がアメリカに流出することを望んではいませんでした。そこで、金の流出を抑えるために、各国は基本的に金融引き締めに乗り出さねばなりませんでした。各国は金の流出を防ごうとして意図的に金利の引き上げに臨んだのです。『金の足かせ』は、金本位制が原因で、アメリカで生じた貨幣的ショックが世界的な金融引き締めにつながった、との説明を提供しているのです。
アイケングリーンの研究が示していることは、経済に関する馬鹿げたアイデアが原因で破滅的な結果がもたらされ得る、ということです。世界中の政策当局者が金本位制に留まることを決意したために、世界各国はアメリカの後を追って大恐慌に突入することになってしまったのです。
質問者:大恐慌当時、経済学者たちは金本位制の欠点を理解したうえでそれ(=金本位制の欠点)に対して警鐘を鳴らしていたのでしょうか? それとも、金本位制の欠点が理解されるようになったのは欠点が露わになって以降のことだったのでしょうか?
ローマー:当時から金本位制の欠点を理解した上で警鐘を鳴らしていた経済学者もいるにはいましたが、欠点が広く認識されるようになったのは事が起こってからでした。金本位制は今日のユーロと似た面があります。1800年代後半~1900年代初頭のよき時代においては金本位制は極めて良好に機能していたのです。ちょうど金融危機以前の時期においてユーロが極めてうまく機能していたように。当時の政策当局者らは金本位制はいつでもうまく機能すると考える傾向に陥っていました。
アイケングリーンが主張しているところによると、金本位制がその絶頂期に良好に機能していた理由は、各国が(金本位制の)ルールに忠実に従って行動しており、イングランド銀行が国際的な金本位制の運営者の責務を効果的に果たしていたからだ、ということです。しかし、第一次世界大戦中に金本位制が崩壊して以降は事情が変わったにもかかわらず、特にアメリカで大規模なショックが生じた場合には金本位制はうまく機能しない可能性がある、ということを経済学者や政策当局者が認識するに至るにはしばらく時間を要し、各国は金本位制への復帰を目指すことになったのです。
質問者:今日において金本位制に相当するようなものが何かあるとお思いでしょうか? つまりは、後世の歴史家が経済問題を引き起こし、事態の悪化に手を貸すことになったと判断するような経済政策に関する馬鹿げたアイデアを見かけることはあるでしょうか?
私は唐辛子スプレーを運ぶことができます
ローマー:見かけます、見かけます。中でも最も重要なものは、財政緊縮―財政赤字の即時的な縮小―は景気拡張的な効果を持つ可能性がある、というアイデアです。政府支出を削減し、増税に乗り出せば、人々が抱く信頼(confidence)が高まり、その結果として雇用や経済成長が阻害されるよりもむしろ促進されることになるだろう、というものですが、政策当局者の中にはこのアイデアに惹かれている者もいます。これは非常に馬鹿げたアイデアであって、実証的な証拠とも矛盾するものです。
この拡張的財政緊縮といったアイデアへの誤った信念は特にヨーロッパにおいて広まっています。今現在ヨーロッパが困難な状況に陥っている理由の多くは拡張的財政緊縮というアイデアの広がりに求められます。ギリシャやスペインといった困難まみれの国々は、ヨーロッパ各国ならびにIMFからの支援を受けることと引き換えに厳しい財政緊縮策を採用するよう強いられました。イギリスやドイツといった国々もまた財政緊縮に向かって動くことになりましたが、その理由は、拡張的財政緊縮というアイデアを受け入れ、財政緊縮は経済成長にとってプラスだと考えたからでした。しかしながら、その結果は好ましいものではありませんでした。ヨーロッパ全域を通じて経済成長は減速し、ユーロ圏は新たな不況に突入したことがほぼ� ��らかになりました。極端な財政緊縮策を採用したスペインやギリシャといった国々では失業率が急激に上昇することになりましたが、失業率の上昇は財政赤字をコントロール下に置くことをより一層困難にすることでしょう。
ヨーロッパやアメリカが採用すべきもっと賢明な政策があります。財政問題は非常に差し迫ったものではありますが、その解決には漸進的に取り組むべきです。財政問題の解決に向けたプランを今すぐにでも立案することは望ましいことですが、実際の政府支出の削減や増税は経済が回復してもっと健全な状況に戻るまで控えるのが好ましいでしょう。経済成長の刺激(促進)を目的とした政策は(拡張的財政緊縮よりも)ずっと思いやりに溢れるものであり、最終的には財政問題の改善にとってもプラスに働くことでしょう。経済成長や完全雇用を実現することなしに財政赤字をコントロール下に置くことは非常に困難な話なのです。
質問者:共和党の大統領候補指名争いをたたかっている一人、ロン・ポール(Ron Paul)陣営の政策の主軸として金本位制がここのところニュースでも取り上げられることがあります。金本位制への復帰を求める人々に対してどのような言葉をおかけになりますか?
ローマー:「アイケングリーンの本を読みなさい」と伝えます。金本位制は現在私たちが抱える問題の解決策とはならないばかりか、私たちが抱える問題をさらに悪化させる可能性すらあるのです。
質問者:さて、次は、プリンストン大学の元教授であり、現FRB議長であるベン・バーナンキ(Ben Bernanke)の論文集『Essays on the Great Depression』(『大恐慌論集』)について話を伺うことにしましょう。この本、中でもこの本にも収録されている論文 "Nonmonetary Effects of the Financial Crisis in the Propagation of the Great Depression"(「大恐慌の波及(拡散)メカニズム ~金融危機の非貨幣的諸効果~」)が金融危機に対する我々の理解を深める上でどのような貢献をしたのか、その点のご説明をお願いします。
ローマー:バーナンキ議長は大恐慌に関する重要な論文をたくさん書かれています。中でも有名な論文はたった今あなたが言及されたその論文です。フリードマンとシュワルツは、銀行パニックによってマネーサプライの減少が生じたことを示しました。(銀行パニックに基づく)マネーサプライの減少は実質金利の上昇を通じて生産の停滞をもたらしたと考えられたのです。一方、バーナンキの主張は、金融危機は信用の利用可能性(アベイラビリティ)を低下させることによって直接的にも(生産の減少につながるような)ネガティブな効果を持つ、というものです。金融危機によって銀行が破産したり、銀行が貸出に消極的になったりする場合、金融危機はマネーサプライへの効果を通じた経路以外にも(あるいはそ� �に加えて)経済に対して負のインパクトを持ち得るのです。バーナンキは、大恐慌の研究を通じて、銀行危機の非貨幣的な諸効果が非常に大きくなり得ることを示す証拠を見出したのです。
金融危機の非貨幣的な諸効果に対するバーナンキの着眼は非常に重要なものであると受け止められるようになり、利子率に対する効果以外に信用が持つ効果にはどのようなものがあり得るかをめぐってその後に一群の研究が生み出されることになりました。バーナンキは、金融政策の波及メカニズム(金融政策がどのようにして経済に対して影響を及ぼすのか)に関する我々の見方を変えたのです。
質問者:今お話しいただいたバーナンキの理論は2008年に勃発した危機の理解ならびにそれへの対処にどのような影響を持ったのでしょうか?
ローマー:バーナンキの研究ならびにバーナンキの研究が刺激となってその後に出現することになった一連の研究群が私たちに伝えていることは、金融危機下においては、マネーサプライの減少を防ぐだけではなく、信用の利用可能性を確保することがいかに重要か、ということです。私たちが大恐慌から学んだことは、信用の流れが途絶えてしまう(信用の利用可能性が大きく低下してしまう)と破滅的な結果がもたらされることになる、ということです。
このようなアイデアは近時の危機下におけるFedの行動にも大きな影響を与えることになりました。2008年秋に勃発した金融危機に対処するにあたり、Fedは中央銀行の伝統的な手段-金融システムに対して積極的に流動性を供給し、システム内に大量の現金が流通するよう確保する-に訴えるだけではなく、信用の利用可能性を保つために異例の(非伝統的な)行動にも打って出ることになったのです。信用市場がうまく機能していないと見てとるや、Fedはそのクリエイティブさを存分に発揮して、企業による信用の利用可能性を確保するための手段を新たに考案したのです。例えば、多くの企業は給与支払いをカバーしたり日常業務が滞りなく進むよう資金を調達するためにCP(コマーシャルペーパー)を発行していますが、もしCP市場が� �能不全に陥って誰もCPを買いたがらないような状況になったら、FedがCPの買い手となる意向を表明したのでした。
質問者:今お話しいただいたFedの一連の行動は、一般の人々が中央銀行の仕事として普通に理解しているものとは異なると思います。金融政策は大きく変化してきたのでしょうか? そもそも金融政策とは何でしょうか?
ローマー:通常的な理解では、金融政策というのはFedによる金利の決定を指しています。FedがFF金利を上げ下げすることを指して金融政策と捉えるのが通例の理解です。しかし、この度の危機は非常に厳しいものであったために、Fedは通常よりももっと積極的かつクリエイティブな対応を採らねばなりませんでした。この度の危機下においてFedはFF金利をゼロ%にまで引き下げましたが、それに加えて、信用の利用可能性を保ち、FF金利以外の金利を低下させることを意図して、数多くの新たな手段を採用することになったのです。Fedが採用した新たな手段を金融政策と呼ぶか信用政策と呼ぶか量的緩和と呼ぶかはある程度選択の余地があるでしょうが、いずれの手段も中央銀行が実施していますので、私自身は大きく金融政� �という括りの中でそれら(新たな政策手段)を位置づけることにしています。
質問者:多くの人々は、「大不況」("Great Recession")に対するオバマ政権の財政政策面での対応を(「ああすべきだったのに」というかたちで)後知恵で批判しています。金融政策に対して後知恵で批判可能な面はあるでしょうか?
ローマー:私たちはしばしばこの度の金融危機はリーマン・ブラザーズの破綻から始まるものとして考えていますが、サブプライムローン証券市場のメルトダウンに伴って金融市場は2007年後半頃から既に差し迫った緊張に包まれていました。2008年を通じてFedは住宅価格の下落や信用の収縮の影響を和らげるべく大変懸命に行動しました。Fedは極めて予防的・積極的(proactive)に振舞ったのです。そして2008年の秋に危機が到来することになるわけですが、Fedはここでも(サブプライムローン証券市場のメルトダウン以上に)破滅的なメルトダウンを防ぐ上で重要な働きをしました。Fedの対応がなければ金融危機はもっと深刻な状況をもたらしていたことでしょう。この面に関するFedの対応を後知恵で批判することは困難です� �
後知恵でFedを批判することが可能な面を探すとすれば、それは目の前の危機を乗り越えて以降のFedの行動ということになるでしょう。2009年の秋頃には金融システムは安定を取り戻していましたが、経済のそれ以外の面は金融危機の余波を受けて依然として脆弱な状況に置かれていましたし、失業率は10%に向けて上昇を続けていました。このような状況に対して景気回復を促すために量的緩和や大胆なコミュニケーション戦略などの積極的な行動に打って出るべきところだったにもかかわらず、Fedは一息ついてしまったのです。Fedのこの行動は間違いだったと言えるでしょう。
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