2012年5月18日金曜日

麻酔文献レビュー 2010年12月②:研麻抄:So-netブログ


Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年12月号より

Hospital Complication Rates With Bariatric Surgery in Michigan. JAMA 2010; 304:435-42

病的肥満の治療を目的とする減量手術は、米国で行われる手術のうち二番目に多い術式であるが、病院によって安全性や転帰に差があるのではないかという懸念が未だに払拭されていない。ミシガン減量手術共同研究(MSBC)は、医療費支払い組織(保険会社や政府)の資金提供を受けて行われている医療改善プログラムの一つであり、外部監査の下で臨床転帰の前向き登録を行い、安全性や転帰のばらつきの有無を検証している。

今回行った遡及的研究は、MSBC登録システムに参加している25か所の病院で得られたデータを利用し、3年のあいだに減少手術を受けた患者(15275名)の臨床転帰を評価した。術式、執刀医および病院特性によって臨床転帰に差があるかどうかも併せて検証した。


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腹腔鏡下に締め具合の調節が可能なバンドを胃に装着する手術を受けた患者は、基準時点におけるリスクおよびBMIが低く、基礎疾患の合併が少なかった。全体では、7.3%に周術期合併症が認められた。致死的合併症(3.1%)、死亡(0.14%)および回復不能の後遺症を起こした合併症(0.33%)は、袖状胃部分切除もしくは腹腔鏡下調節可能胃バンド装着術を受けた患者と比べ、胃バイパス手術を受けた患者において発生頻度がもっとも高かった。手術部位合併症(8.7%)および手術部位感染(4.4%)も、胃バイパス術群で発生頻度がもっとも高かった。胃バイパス手術を受けた患者では、袖状胃部分切除を受けた患者と比べ再手術率が高かった(2.5% vs 0.59%)。また、胃バイパス手術を受けた患者は袖状胃部分切除を受けた患者より、再入院率および救急外来受診率がともに高かった。

重度合併症の発生頻度は大半の病院で2%~3%であった。年間の減量手術実施件数が多いほど重度合併症発生頻度が低い傾向が認められた。年間実施件数の少ない病院に在籍する執刀件数の少ない外科医の行った減量手術は、年間実施件数の多い病院に在籍する執刀件数の多い外科医が行った減量手術と比べ、重度合併症の発生率が概ね2倍に達した(4.0% vs 1.9%)。一方、拠点病院(COE; centers of excellence)に認定されている病院とそうでない病院とを比べてみても、重度合併症発生率には差は認められなかった。


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解説
本研究では、減量手術を受けた患者の7%に周術期合併症が発生し、その大半が生命に関わるような重大なものではなく創部合併症であることが明らかになった。胃バイパスを受けた患者では、他の術式を受けた患者と比べ合併症発生率が最も高かった。重度合併症の発生頻度は、病院および外科医の実施件数と逆相関を示した。

A Systematic Quantitative Assessment of Risks Associated With Poor Communication in Surgical Care. Arch Surg. 2010;145(6):582-588.

米国の病院では、回避可能な有害事象によって多くの命が失われている。主要な原因の一つとして、意思疎通の失調が挙げられ、特に手術患者に関する意思疎通がうまくいかないと深刻な事態を招くおそれがある。本研究は、手術患者に関する意思疎通の全体像を明らかにした史上初の調査である。

体系的な定量評価法である医療版FMEA(healthcare failure mode and effect analysis[HFMEA]; 医療ミスの種類とその影響の解析手法)を情報伝達と意思疎通プロセスに適用し、手術患者において起こりうる問題を評価した。一か所の教育病院においてHFMEAを導入し、複数の外科医、麻酔科医、看護師および心理学者一名からなる他職種チームについての調査を行った。この他職種チームに対してはHFMEAの手順について予め説明した。そして、術前、術中および術後のそれぞれの時点における意思疎通プロセスの調査を実施した。次に、この三つの時点一つ一つを四つに区切り起こりうるミスの種類を同定した。消化管の予定大手術を受ける10名の患者を対象として独立した観測調査を行い、起こりうるあらゆる種類のミスの検証を行った。


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全体で132例のミスが見つかった。そのうち31.3%が高リスクのミスであった。高リスクのミスのうち26件は現行のプロトコルを守っていれば起こらないはずのものであった。しかし、それ以外のミスの分析では、プロトコル逸脱とは異なる22種類の原因があることが分かった。術前期においては、記憶違い、知識不足、不明瞭な責任範囲および上下関係/権限の差が情報伝達の問題を引き起こしていた。患者10名の追跡期間中に、39件のミスがあった。内訳は、医療従事者間の意思疎通ミス(13件)、与薬または処方ミス(11件)、血栓予防法実施ミス(8件)、基礎疾患に対する対応のミス(2件)、患者評価に関するミス(5件)であった� ��ミスを減らす対策として、術前チェックリストの活用、患者ケアを構成する各要素についての各成員の役割と責任の明確化、自動警告機能を搭載した電子情報伝達システムの活用および多職種チームの病棟回診による患者の包括的評価・管理などが有効であるとされている。

解説
手術にはリスクがつきものである。中でもとりわけ、意思疎通がうまくいかないことによるミスが起こりがちである。HFMEAは、医療におけるいろいろなプロセスの評価を行い、ミスを極力減らすのに有用な手法である。本研究で得られたデータによれば、HFMEAの導入によって手術患者の転帰不良症例が減り、特にミスによる転帰悪化を防ぐことができる。

Endovascular Repair of Aortic Aneurysm in Patients Physically Ineligible for Open Repair. N Engl J Med 2010; 362:1872-80


EVAR2(endovasucular aneurysm repair 2)試験では、腹部大動脈瘤血管内治療によって大動脈瘤破裂による死亡リスクが減少し余命が延長するかどうかが検証された。すでに公表された短期転帰についての報告によれば、死亡リスク減少もしくは余命延長効果はないという結果が得られているが、何らかの有益性の有無を明らかにするには、長期間の追跡調査を行う必要がある。ここに紹介した論文では、腹部大動脈瘤に対する開腹手術が身体的要因により適応がないとされた患者における長期(~10年)転帰が報告されている。

EVAR2は無作為化試験で、英国に所在する33ヶ所の病院で行われた。対象は、直径5.5cm以上の腹部大動脈瘤があり開腹手術の適応がない60歳以上の患者である。対象患者を、血管内治療群(197名)または無治療群(207名)のいずれかに無作為に割り当て た。

平均年齢は76.8歳、大動脈瘤径の平均は6.7cmであった。血管内治療を受けた患者の100人年あたりの死亡率は3.6%で、無治療群では7.3%であった。

解説
この研究の対象となった患者集団では、腹部大動脈瘤に対する血管内治療を行うと、大動脈瘤関連死亡率が無治療の場合より低下することが分かった。しかし、全死因死亡率および割り当て通りに治療が行われた症例のみの死亡率を比べると、EVAR群と無治療群のあいだに差は認められなかった。全死因死亡率には大動脈瘤以外の原因による死亡が関わっている。大動脈瘤関連死亡率が低下したといっても、全死因死亡率に影響を与えるほどではなかったということである。



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